文を書く in TOKYO

ファッションとエンターテインメントについてふわふわ語る

女と女、私と「彼女」たち

下北沢B&Bで開催された、上村由紀子さん×高野しのぶさんのトークイベントに行った帰り、ひらりささん編集企画の同人誌「女と女」をサッと購入した。Twitterで情報を見て以来気になっていたし、近くの席の方が「劇団雌猫が……」と話しているのを聞いて「はっ買わなければ!」と思ったのだった。

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↑表紙がいつも可愛い…上村由紀子さんが前述のトークイベントで、上手、好きだと思う人の文章を全て読む、というようなことをおっしゃっていたので劇団雌猫さん関連の本を網羅的に読んでいる……。

「女と女」に綴られていたのは、ごくプライベートな女と女の思い出の数々。その一つ一つが光を放っていた。

中でも、一番最初の「友達でなくなりつつあるあの子へ」が特に刺さった。友人の結婚ラッシュとタイミングの合わなさに直面していた私は、ちょうど「女友達」の関係性の変化について思いを馳せていたから。発言小町で似たような境遇の人を探してみたり、推しのライブ配信のお悩み相談コーナーで「友達と会えなくて寂しい、どうしよう」と投げかけてみたりしていた。結局発言小町を見ても安心するような答えには巡り合えず、推しには私のコメントは拾ってもらえなかった。当たり前か、重たかったよね。

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 でも、「友達でなくなりつつあるあの子へ」をはじめ、「女と女」を読んでいくと気持ちに折り合いがついていくようだった。様々な人の思い出に触れることで、自分の思い出にも触れているような気になり、優しい気持ちになった。

ふと自分も、私の人生において印象的だった女性を振り返ってみようかなあと思った。私と、「彼女」。有名な人も、私の周囲にいた人も、その「彼女」に当てはまる。

 

椎名林檎

人生は夢だらけ

人生は夢だらけ

  • provided courtesy of iTunes

 

 この人がいなかったら今の私はいない。大袈裟ではない。私が今まで生き延びてこれたのは、椎名林檎のおかげだと思う。憧れが人を生かす。好きが人生を喜びで満たしてくれる。椎名林檎のファンになった中学生の時期は、自分も周囲も不安定だったけど、椎名林檎が私の柱になってくれていた。4GBの細長いiPod nanoを握りしめて、通学の行き帰りは可能な限り椎名林檎の曲を聞いていた。そして、椎名林檎から派生する全てのものが好きになった。授業中に回文を作ったり、旧仮名づかいで手紙を書いたりしていた。「無罪モラトリアム」も「勝訴ストリップ」も大好きだったが「加爾基 精液 栗ノ花」が一番好きだった。当時は言葉の意味が難しくて理解できていなかったが、ディジュリドゥなど色んな珍しい音が聞こえること、映画を見ているかのようなドラマチックな曲の展開に夢中になっていた。

加爾基 精液 栗ノ花

加爾基 精液 栗ノ花

  • アーティスト:椎名林檎
  • 発売日: 2008/07/02
  • メディア: CD
 

大人になって、ふとなぜあの時の私はあんなに熱狂的に椎名林檎のことを好きだったのだろうか、と思う。

それは、おそらく彼女が自由に見えたから。ナースの格好をしても、過激な歌詞を歌っていても世間から認められる椎名林檎が自由な存在に思えたから。おそらく実際は彼女は全く自由ではなく、彼女なりの抵抗の1つの形だったのだけど、大人になってみたらそれも共感できる。自由であるように振舞うことで、不自由な社会に抵抗してくれていた、そんな風に私は彼女の活動を受け取った。  

椎名林檎さん、世間に向けて戦ってくれてありがとう。そのおかげで、これからも頑張って生きていける。私だって抵抗する。

MAMAMOO

[MV] 마마무(MAMAMOO) - HIP - YouTube

 

HIP

HIP

  • provided courtesy of iTunes

 

「HIP」を聞いて、沼に落ちかかっている。私の推しであるふぉ〜ゆ〜(※ジャニーズの4人組男性アイドル)と同じ、4人組の女の子。4人とも、クールでかっこよくて可愛い。MVがまじでいい。キラキラファビュラスガールズトークみたいな感じ。華やかで夢を見せてくれる、まさにアイドル。ちょ、まじハングル勉強するわ。輸入盤CDほしい。しかもペンライトが大根の形らしい。可愛すぎる、ほしい。

金髪チャーミング、おきゃん(表現古い?)な女の子はソラ。

美人で声が低めでかっこいい、つかもはやイケメン、宝塚の男役を彷彿させる凛とした佇まい、ストリートテイストの衣装がめちゃくちゃ似合うムンビョル。

クールビューティー、めっちゃ圧倒的な存在感。歌のビブラートが素敵。なんとなくマイペースそうなファサ。

親しみやすそうで笑顔が可愛い。普段の仕草がファニー。歌が印象的なフィイン。

何より「HIP」がめちゃめちゃいい……あの4人でピースするとことか!セーラームーンかあんたら?!かっこよくて可愛くて憧れる!箱推しするかも……。あとMVがカラフルでいちいち可愛い。着飾って女子会に向かう時の、キラキラした無敵感がある。今度来日してくれる時は、是非とも現場に向かいたい、、!

B'zの稲葉さんラブな先輩

 前にいた会社の先輩は、新卒で入社した私を初めてサシ飲みに誘ってくれた人。よく飲みに行って、休みの日に鍋パーティーをするなど仲良くしていただいた。私のぐるぐるした悩みをカラッとした観点から軽やかにしてくれる、頭が良くて心が広い女性、そして自由でちょっと変わっている。オールで飲んだ朝に百貨店に行って、先輩のお母さんにプレゼントする指輪を一緒に選んだこともある。また別の日には、私が先輩の家に泡盛をこぼしても全く怒らず、夜に食べるのを忘れていたケーキを食べ、なぜかその後カレーを食べに行った。楽しかったけど振り返って文字に起こすとちょっと変てこな思い出だなと思う。

先輩は恋愛体質的なところがあり、ちょうど仕事で追い詰められている時期と、恋愛の苦しい時期が重なっていた時は外から見ていても辛そうだったのを覚えている。その時期の先輩は、会社の偉い人たちと一緒に飲みに行った際に酔っ払って椅子から転げ落ちたと言っていた。先輩は私が辞めるよりも前に会社を辞め、海外へ移住した。私も、それから程なくして会社を辞めたが、その直前に会社の飲み会で酔っ払って上司への不満を撒き散らし、大人数の前で座敷から転げ落ちた。人は会社への不満が溜まりすぎると椅子から転げ落ちるのだろうか。

先輩が度々かっこいいと言っているのはB'zの稲葉さん。先日も「稲葉さんが夢で歌を教えてくれた」とLINEがきた。ちょっとしたことで絶望しがちな私に、人間って魅力的な存在だと教えてくれるのは、いつもこの先輩な気がしている。

竹内まりや

ハロゲンライトの光る幹線道路の側に住んでいた時に「プラスティック・ラヴ」を鬼のように聞きまくっていて、まりやさんの描く恋愛ゲームと夜の世界に浸りに浸っていた。まりやさんは不思議で、歌詞の言葉にはどろっとしたところがないのに世界の苦味を感じさせる。

「閉ざした心を飾る派手なドレスも靴も孤独な友達」

「グラスを落として急に涙ぐんでもわけは尋ねないでね」

いつもどこかしら武装して生きてきた、でも、攻撃的ではない、でも、はっきりとした主張。まりやさんの言葉の素敵さには到達できる気がしない。

山下達郎竹内まりやを評する時「人間への強い肯定感」という言葉を使う。私には到底難しくてできない。自己肯定感だって持つのが難しく、人間という存在そのものへの肯定をするのがこんなに難しいというのは、大人になってからわかったことだ。人間への肯定や信頼は、まりやさんの音や言葉に、確かに溢れている。だからこそ、自分に足りないからこそ、私はまりやさんの音楽を聞いている。

素敵な洋服販売員の皆さん

前に勤めていた会社がアパレル関係だったこともあり、洋服の販売員の皆さんを見ると応援したくなる。全ての洋服を買えるような富豪ではないので試着しても買わないこともあり、そういう意味では推しにお金を落としきれていないですが……。

学生だった時にバイト代でセールのアウターを買いに行った時、学生相手にがっつり接客についてくれた方、あとから店長だとわかったが、その方は接客のプロだったと思う。「学生さんですか?」から始まったそのやりとりに不快だと思うパートや違和感は1つもなく、むしろこんなに温かく接客してくれるなんて!と感動した。軽い足取りで、買ったばかりのコートと共に家に帰ったのを覚えている。

会社に勤めるようになって、仕事で洋服の販売員に接していくと、長く販売の仕事を続けている人ほどやはり気配りや思いやりが半端ではなく、社歴で見れば部下に当たる私にも丁寧に接してくださるベテラン販売員がたくさんいた。忙しい中で、面倒なはずなのにちゃんと向き合って指導してくれた。もちろん販売員みんながそういう人ばかりではないけれど、洋服を売る以外にすごく細かいところまでサービスを考えているような人が多い。お客様に似合うコーディネートを考えたり、お客様と共感できる話題について勉強してみたり。

たまに「アパレル店員に話しかけられるのが嫌だ」というマニュアル接客を揶揄するようなネタが披露されているのを見るとちょっともやっとしてしまう。画一的な固定概念を外部から植え付けるのはやめてくれ。私が見てきた販売員さんは、若い人もベテランも、どの人もマニュアル的な声かけなんてしないし、コミュニケーションが好きで思いやりのある人ばかりだったから。新人の子は立ち振る舞いに慣れておらず、少々もたついてしまうこともあるけれど一生懸命さは必ず伝わってくる。情熱を持って服を売っている販売員さんは世の中にたくさんいる。

植本一子 

かなわない税込1,496(2020/07/18時点)

 ブログや日記を意識的に残すようになったのは、植本一子さんの『かなわない』を読んでから。良い日・悪い日のようにパキッと分類できない日常を暮らしていく身として、その日にあった嫌なことも、良かったことも、貴重な思い出として残していきたいな、と思えたのは、植本さんの文章があまりに生活に基づいていて、あまりに真摯だったから。『かなわない』は文体は淡々としているけれども、時に感情的で、時にあまりに俯瞰していて、感情移入というよりも私が書き手であるかのような没入の仕方をしたのを覚えている。

植本一子さんもまた、「人間への肯定」が見て取れる作家。とても素敵で大好きなのですが、とあるイベントでご本人が店頭に立たれていた時に、あまりうまく話すことができず変なことを口走ってしまい、精進が足りないな、と反省した。  

学生時代好きだった先輩

私は女子校に通っていたため、学生時代に熱狂的に好きだった部活の先輩は女子だった。好きといっても、どうなりたいという願望がなく、ただ単に好きだった。推しに限りなく近い存在であった。言葉を交わすだけで、目と目が合うだけで本当に嬉しい。廊下で遭遇するとときめく。部活で指導してもらうとときめく。年賀状や暑中見舞いの葉書を大事にとっておいたり、文化祭で一緒に写真を撮ってもらって友達とはしゃいだりしていた。部活内の暑中見舞い文化って今でもあるのかしら。

先輩がバンドを組んでいたのを真似して、私も友達とバンドを組んだ。先輩のバンドがGO!GO!7188の「C7」や「浮舟」をコピーしていたのを見て、猛烈にGO!GO!7188ばっかり聞いていた。

鬣

  • 発売日: 2004/04/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

ただ、当時を思い返すとそんなに親しくしてもらっていたわけでもなく、先輩と私の距離感は遠かった。はちゃめちゃに一方的な片思いだったし、彼女は私にとっての推しであり、アイドルだった。先輩のことを好きでいた期間の部活や学校生活は楽しかった。先輩の引退とともに、部活への熱意もだんだん冷めていき、学校生活にも飽き始めていたように思う。

そう考えてみると、対象が変わっただけで今も考えていることはそう変わらない。先輩は推し活の原初的な体験だったのかもしれない。推しがいる人生って楽しいよな!!

金原ひとみ

 金原ひとみは、日々私が持つぐるぐる/もやもや/どろどろをあまりに的確に言語化してくれる作家で、心情表現が細かくて丁寧で本当に好きだ。心の中にそっと寄り添ってくれるような気がする。 

持たざる者税込572(2020/07/18時点)

特に、『持たざる者』が好きだった。震災以降、どのような行動を選択したのか?を表現しながら、日常を生きる人々の心の揺れを描いた作品。面白いのは、それぞれ異なる立場に置かれたキャラクターのそれぞれに、少しずつ感情移入できる。原発事故の時の言いようのない不安が、日常に侵食して、でも日常に流されていく様を思い出す。もう、思い出す段階になってしまった、あの感覚。あのときはあんなにリアルだったのに。

あとは、生活の描写も現実的で、例えば我が道を生きること、どっちつかずの恋愛、家族の厄介な関係性とかが描かれている。ああ、これって、こういうことってあったよな、とか友達から聞いたな、という感じがありありと思い出される。

 

あと、パリから帰国してきた時のエッセイ「パリの砂漠、東京の蜃気楼」も好き。パリと東京、それぞれの空気、風当たりが感じられてよかった。空虚な飲みの後に、お腹が空いていないのにコンビニでおにぎりを買って、家に帰ってお酒を注いで、そのまま寝るという行動は私も何回かやったことがある。

村田沙耶香

私にとって、内面を言語化してくれるのが金原ひとみなら、自分がいる世界を俯瞰で見ることができるのが村田沙耶香村田沙耶香は現存する世界のあり方や、世界の変容可能性を鮮明な手法で示してくれる。

 

しろいろの街の、その骨の体温の税込1,386(2020/07/18時点)

 

思春期の女の子が主人公の『しろいろの街の、その骨の体温の』は、学生時代の記憶を外から見ているような感覚になったし、『消滅世界』は夫婦間の性行為が「ありえないもの」「汚らわしいもの」としてタブー視され、子供は人工授精で授かるもの、という認識が当たり前の世界を描いていて、いつか本当にそういう世界が来るかもしれないな、と思った。『コンビニ人間』では、コンビニ店員としての生き方に順応しきった主人公と、世間のずれが表現されているが、しばしば「世間の当たり前」って当たり前なのか?ずれているのはどっちなの?と考えずにはいられなくなる。いわゆる普通とされる生き方に、形式的でも順応してみようとする主人公に対して、周りの評価が急変する場面にはぞっとした。

 エッセイの『きれいなシワの作り方 淑女の思春期病』も面白いです。

 

きれいなシワの作り方~淑女の思春期病税込754(2020/07/18時点)

友達未満だけど仲良くしてくれたパリピギャル

同じ学校だけど全く同じグループに属さなかったパリピギャルと、通っていた予備校が一緒だったため少し仲良くなった。彼女はいわゆるカースト上位のグループに属していたが、攻撃的になったり悪口を言ったりするタイプではなく、どこか客観的に自分や自分の周囲を見ていたところがあった。自分が所属するグループの子を「あの子たちは自己愛が強いから」と言っていたこともあった。

高校は校則が厳しかったため、スカート丈や染めた髪のことで彼女はしばしば校長や生徒指導の教師から呼び出されていた。でも、彼女は教師に対し「え、でもスカート短い方が可愛くないですか??」と突っぱねたらしい。かっこいいしちょっと笑える。

高校卒業後も、予備校の友達との集まりで時々顔を合わせていた。あまり詳細を思い出せないが、公園でタバコを吸う彼女とぼーっと大学生活について話したような気がする。

彼女は椎名林檎が好き、という私との共通項があった。2012年2月29日、東京事変がその日をもって解散する日本武道館公演のチケットを幸運にも入手した私は、彼女と一緒に行くことにした。確か、雪がまだ残る寒い日だった。お互いに会場の前でガラケーで写真を撮りあったが、一緒のフレームに写ることはなかった。当時のガラケーには、おそらく武道館の前で佇む自分の写真のみが残っているはずだ。

私は「群青日和」を聞きながら号泣していたが、彼女は穏やかな顔でまっすぐ東京事変のステージを見つめていた。東京事変のライブ以来、彼女とは連絡を取っていない。